自己破産をする場合に自宅などの不動産を所有していると、その不動産は処分せざるを得ません。
その時に問題となるのが、自己破産をする前に先に家を任意売却で売っておいた方が良いのかという点です。
この結論は状況や考え方によっても異なりますが、ご自身の負担を軽減するという意味では自己破産の前に任意売却しておいた方が有利になります。
ここではその理由と注意点について解説します。
自己破産の「同時廃止」と「管財事件」
自己破産には実は2種類あります。「同時廃止」と「管財事件」です。
この2つのどちらが適用されるかについては、裁判所へ破産を申し立てた後に裁判所の判断で決まります。
先に家を任意売却したほうが良いかということを説明するためには、まずこの同時廃止と管財事件について理解していただく必要があります。
管財事件とは?
管財事件とは、一言で言うと破産管財人の弁護士が選任される破産の手続きのことです。
破産管財人とは、破産の手続きにあたって破産者の資産を処分して債権者に分配する業務を行う弁護士です。
従って、不動産や預貯金等の資産が残っている方が破産をする場合は、原則としてこの破産管財人が付くことになります。
なお、この破産管財人の弁護士は裁判所が任命するため、ご自身で決めることはできません。
仮に自己破産の申立を任意の弁護士に依頼していたとしても、その弁護士は自己破産の申立までを行い、その後に裁判所が別の弁護士を管財人として選任します。
同時廃止とは?
同時廃止とは、管財事件とは逆で管財人の弁護士が付かない破産手続きことを言います。
前述の通り、破産管財人は破産者の資産を処分して債権者に分配するのが仕事です。
そのため、破産者に不動産や預貯金等の資産がない場合は債権者に分配するものもないため、破産管財人が選任されることはありません。
つまり、簡単に両者を分けるなら、「資産がある状態」で自己破産をする場合は管財事件、「資産がない」のであれば同時廃止となります。
※実際には資産の有無だけではなく裁判所が案件ごとに総合的に判断して決定しますので、資産がないから必ず同時廃止になるわけではありません。
※また、地域ごとの管轄の裁判所によってもその基準が大きく異なります。
管財事件のデメリット
もし自己破産を申し立てて管財事件になってしまうとどのようなデメリットがあるのでしょうか?
①予納金が必要
まず何といっても管財事件となってしまうデメリットは費用が掛かることです。
管財事件になってしまうと申立を依頼する弁護士や司法書士の費用の他に、裁判所への予納金が必要になります。
予納金の金額は案件によっても異なりますが、原則40万円です。一定の要件のもと少額管財(比較的シンプルな管財事件)が認められた場合は原則20万円となります。
破産をする方にとって上記の金額を準備することは非常に困難かと思います。お金に困っているから自己破産したいのにお金がないから破産できないという矛盾に陥ってしまう危険性もあるのです。
②資産の処分方法を選択できない
管財事件となって管財人がつくと、残っている資産はその管財人が処分して債権者に分配します。
このとき資産の処分方法についても管財人が権限を持っていて、破産者の自由がないのです。
従って、自宅などの不動産を処分するにしても、それを任意売却するのか競売にするかということを選ぶことができなくなります。(仮に任意売却するとしてもどこの業者に依頼するかは管財人の判断になります)
そのため、プライバシーの問題で競売は避けたいと思っても、管財人と債権者の判断でそれが受け入れられず、強制的に競売にかけられてしまう可能性もあるのです。
③管財人との面談が必要
管財人が選任されると、この管財人との面談が必要になり、何度か裁判所や管財人の事務所に出向く必要があり、まずこれだけでも大変です。
また管財人弁護士はあくまでも債権者との中立な立場であるため、破産者の味方をしてくれるわけではありません。
厳しい弁護士に当たってしまい、この面談が精神的にとても苦痛だったという方もいらっしゃいます。
先に家を売っておけば同時廃止で済む?
前述の通り、管財事件は「資産がある」状態での破産ですので、基本的に資産が無ければ同時廃止で済むことになります。
そのため、先に主な資産である自宅を任意売却して資産を処分してしまえば、自己破産をしても同時廃止で済む可能性が高くなります。
そして、同時廃止で済めば上記のような管財事件のデメリットは避けることができます。
家を売ってから自己破産をしても管財事件になってしまう可能性も…
管財事件か同時廃止かの基準は家の有無だけではなく、あくまでも裁判所が総合的に判断をすることになります。
特に、先に自宅を売却しても以下のような場合は管財事件になる可能性が高くなります。
・他に20万円を超える個別資産がある(預貯金、株式、車、解約返戻金のある保険など)
・ギャンブルや浪費をしていた
・不当な財産隠しの疑いがある
・特定の債権者(親族等)にだけ先に返済をしていた
従って、一概に先に家を売却したから管財事件にはならず、同時廃止で済むというわけではありません。
また、これらの基準は管轄する地域ごとの裁判所によっても大きく異なります。
自己破産前に自宅の任意売却を済ませておくメリット
自己破産をする前に自宅を売却することにより、管財事件になる可能性を下げることができます。
具体的には以下のようなメリットがあります。
①同時廃止で済めば予納金や管財人との面談が不要
同時廃止が認められれば予納金は不要が不要になります。
つまり40万円(少額管財の場合は20万円)の費用が浮くことになりますので、費用的な負担は大幅に軽減されます。
また、管財人との面談も不要になりますので、時間的・精神的な負担も大きく軽減されます。
②競売を回避できる
自宅を残したまま管財人がついてしまうと、その処分方法は管財人と債権者が判断をすることになります。
そのため、任意売却を希望しても競売で処分されてしまう可能性もあります。
競売になると、競売になったことがインターネット等で公開されてプライバシーの問題が出てきてしまいます。
また、引越し代の交渉をすることもできません。
先に自宅を売却しておけば、そのようなリスクを回避することができます。
③売却代金が余れば引越し代や最低限の生活費、破産費用に充てられる
自宅を売却した代金は、まずは住宅ローンや不動産担保ローンなど、自宅に抵当権が付いている債務の返済に充当されます。
しかし、もしこれが余れば(住宅ローン等の残高よりも売却価格の方が高ければ)、余った資金を自己破産の申立を依頼する弁護士の費用や、最低限の生活費・引越し代などに充てることができます。
※ただし、最低限の生活に必要なもの以外に使ったり、他人に渡したり、特定の債権者(親族含む)にだけ返済することはできません。もしそのような行為が発覚した場合は自己破産が認められなくなる可能性があります。
自己破産の前に家を売却する際の注意点
自己破産の前に自宅を売却する場合は、以下の点に注意が必要です。
住宅ローン等の残債を下回る価格の場合は債権者の許可が必要
ご自宅の価格相場が住宅ローンの残債額を下回っていて、「売却しても一括返済できない」ような状況においては、売却するにあたって債権者(ローンを貸している銀行や保証会社)の許可が必要で、この許可が降りなければ売却することができません。
なお、この場合はいくらで売却するかも債権者の承諾が必要にりますので、事前に債権者との調整が必要になります。この調整は通常は任意売却業者に依頼して調整してもらうことになります。
住宅ローン等の残債を上回る場合は、その価格と余剰資金の使い道に注意
上記とは逆で、自宅を売却して住宅ローンを全額返済しても代金が余り、手元に資金が残ってしまった場合も注意が必要です。
この場合、まず注意すべきは売却価格です。
もし相場よりも著しく低い金額で売却していた場合は、後で他の債権者に売買自体を取り消されてしまう恐れがあるため、あくまでも適正な価格(相場)で売却しておくことが求められます。
※債権者の立場からすれば、その不動産がもっと高い金額で売れていれば自社の回収額が増える可能性があるためです。
また、その余った資金の使い道も要注意です。
住宅ローンを返してもなお売買代金が余った場合は、本来であればそれも他の債権者に返済しなければなりません。
そのため、必要最低限の生活費や引越し代、破産申立を依頼する弁護士の費用など以外に使うことができません。
特に、他人に渡す、散財・ギャンブルなどの行為が発覚した場合は、後で自己破産が認められなくなってしまうリスクが出てきます。
まとめ
以上のように、自己破産にも同時廃止と管財事件の2種類があり、管財事件になってしまうと様々なデメリットが生じます。
状況にもよりますが、先に自宅などの資産を売却して処分しておけば、管財事件ではなく同時廃止で済む可能性が高くなります。
また、先に任意売却することで、競売を回避できたり引越し代を確保できる可能性も高くなります。
しかし、管財事件か同時廃止かの基準は資産の有無だけではありませんので、その点は留意しておきましょう。
また、自己破産をすることを前提に先に自宅を売却して、その売却代金を不当に隠したり使ったりすることはできません。
【執筆者】
ライフソレイユ株式会社
加藤康介(宅地建物取引士)
大手コンサルティング会社にて経営コンサルタントとして6年間従事し、中小企業の経営をサポート。
その後、任意売却専門の不動産会社「ライフソレイユ株式会社」を設立し、これまでに1000人以上の住宅ローン返済に困窮する相談者の生活再建を支援している。
その活動がテレビでも取り上げられ、雑誌にも定期的に記事を寄稿している。